研究目的 | 近現代ヨーロッパの強制移住者の生存戦略とネットワーク形成に関する比較史研究

科学研究費補助金 基盤研究(B) 近現代ヨーロッパの強制移住者の生存戦略と
ネットワーク形成に関する比較史研究 (略称:ヨーロッパ強制移住史料研)

研究目的Purpose of Research

 この研究は、18世紀から20世紀末までの近現代ヨーロッパにおいて、戦争や国家・社会の迫害などによって空間的な移動を強制された人々を対象とし、こうした人々が移動の過程で自らの生存を賭して行った選択(生存戦略)を明らかにした上で、生存した人々が移動の過程において、あるいは移動先において形成した人的ネットワークの実態を明らかにすることを目的としています。

 オランダの移民史家J.ルーカセンとL.ルーカセンは、あらゆる人間行動が一定の強制に基づくものである以上、移動が「自由な意志」によるものか「強制」によるものかを区別することは不適切であり、経済的な理由による移動と政治的・社会的な理由による移動(難民や政治亡命者)を明確に限定することは困難であるとかつて論じました(Jan Lucassen/Leo Lucassen (eds.), Migration, Migration History, History, London, 1996)。この指摘は説得的であり、本研究グループのメンバーの大半が携わった過去二回の共同研究においても、移動の原因や動機によってタイプ分けせずに、人間の空間的移動という現象を広く捉え、個別事例を比較検討することによって新たに見えてくるものを追求してきました。

 しかしながら、戦争、自然災害、迫害、国家権力による命令などを契機として生じる移動が、より良い生活を送るために決断された移動に比べて、強制性の程度が高いことは明らかです。「強制制」をグラデーションとして考えるならば、この研究は、移動する契機において強制性の程度の高い事例に焦点をあてて、それらの比較研究を行うことを目的としています。