代表挨拶 | 近現代ヨーロッパの強制移住者の生存戦略とネットワーク形成に関する比較史研究

科学研究費補助金 基盤研究(B) 近現代ヨーロッパの強制移住者の生存戦略と
ネットワーク形成に関する比較史研究 (略称:ヨーロッパ強制移住史料研)

代表挨拶Message from Research Representative

 2019年度より4年間にわたり、近現代ヨーロッパにおける強制移住者の生存戦略とネットワーク形成をめぐる共同研究を行うことになりました。2011年度から4年間にわたって行われた科研費基盤研究(B)「近代ヨーロッパを中心とする空間的移動の実態と移動の論理に関する比較史研究」(以下、「移動の論理史」科研と略します)、および2015年度から4年間にわたって行われた科研費基盤研究(B)「近代ヨーロッパを中心とする女性の空間的移動とジェンダーの変容に関する比較史研究」(以下、「女性移民史」科研を受け継ぐ、新たな研究プロジェクトです。

 「移動の論理史」科研の研究成果については、2020年中に論集を刊行する予定です。また、「女性移民史」科研では、毎年二~三回の研究会を行うほか、日本西洋史学会での小シンポジウム開催など、積極的な活動を行いました。今回の共同研究でも、同じようなペースで研究会やシンポジウムを開催する予定でおります。

 2011年に勃発し現在にまで至るシリア内戦によって、400万人を超える人々が難民として国外に流出しました。その一部はヨーロッパに向かい、他の国出身の移民・難民の流れとあいまって、2015年には100万人を超える人々がヨーロッパ各国に流入して、「難民危機」と呼ばれる事態が現出しました。それがヨーロッパにおける排外主義的な政治勢力の台頭を招いたことは周知のとおりです。現在、移民・難民問題はヨーロッパにおける最も重要な政治的イッシューの一つとなっています。

 しかしながら、今日では移民・難民の受け入れに揺れるヨーロッパが、20世紀末まで膨大な数の移民や難民、政治亡命者を生み出してきた地域であったことを忘れてはなりません。第二次世界大戦後の難民に限っても、大戦直後にはヨーロッパ全体で2000万人を超える人々が難民化していますし、その後もハンガリー動乱、プラハの春、さらには社会主義体制崩壊後に起きたユーゴ紛争など、幾度となく難民と化した人々を生み出してきたのです。そして、その歴史が今日のヨーロッパにおける難民の受け入れに大きな影響を与えたことも十分に認識しておく必要があります。昨今、日本における報道ではヨーロッパの排外主義的な風潮のみが強調される傾向にありますが、ヨーロッパが自らの歴史的経験を踏まえて難民を積極的に受け入れてきたからこそ、その反動として排外主義が台頭するのであり、難民を積極的に受け入れない国に難民排斥の動きが生じる余地はないのです。それゆえ、今日のヨーロッパにおける難民を取り巻く状況を深く理解するためには、ヨーロッパ自身が難民を生み出してきた歴史を分析することが不可欠であると考えます。4年間にわたる共同研究では、こうした認識から研究を進めていきたいと思います。

 このホームページでは、研究の進捗状況やこのテーマに関するさまざまな情報をお伝えしたいと思います。移民と難民に関わる歴史に関心を持つ多くの方にご覧いただければ幸いです。